研究内容

ファイバー型シュガーチップを利用した分子標的治療のための糖鎖結合性一本鎖抗体の探索

成人T細胞白血病※2細胞に特異的に発現する糖鎖構造に対する一本鎖抗体の探索

図. ファイバー型シュガーチップを用いたがん細胞特異的に発現する糖鎖に対するscFvの探索

 細胞表層に存在する糖鎖は、自己の機能制御や病原体の感染だけでなく、細胞の状態を表すマーカー分子としても働くことが知られています。例えば、細胞ががん化すると、正常細胞には発現しない異常な構造の糖鎖が発現することが明らかになっています。このような糖鎖を指標にすると、がん細胞と正常細胞を識別することができます。また、疾患特異的に発現する糖鎖は、治療薬を開発する上で、有効な標的分子になると考えられており、糖鎖を標的とした分子標的薬の開発が行われています。一方、細胞表層には極めて多様な構造の糖鎖が存在するため、がん細胞に特異的に発現する糖鎖の構造を同定することは非常に難しく、また、タンパク質などに比べて糖鎖の抗原性が低いため、免疫学的手法で糖鎖に対する抗体を得ることも容易ではありません。私たちは、がん細胞表層より切り出した糖鎖を固定化したファイバー型シュガーチップを調製し、ファージディスプレイ法と組み合わせることで、動物への免疫をせずに、がん細胞に特異的に結合する抗体を探索する手法を開発しました。これまでに、成人T細胞白血病(ATL)※2 細胞表層に多く発現するO-型糖鎖に対する糖鎖結合性一本鎖抗体(scFv)の単離に成功しており、今後、ATLに対する新たな分子標的薬や診断薬としての応用が期待されています。また、同様の手法を用いて、他のがん細胞に対する糖鎖結合性scFvの探索も可能であり、今後のさらなる発展が期待されています。

※2 成人T細胞白血病(ATL)…ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が感染することで発症する白血病の一種。ATLを発症するまでの期間が30~50年と非常に長く、HTLV-1 ウイルス保因者(キャリア)の 2.5~5% 程度しか発症しないが、一度発症すると強い免疫不全を起こすため、発症後の5年生存率が約 10% と非常に予後の悪い疾患である。日本の HTLV-1 キャリアは、鹿児島県、沖縄県などの南九州を中心に全国で約108万人と推定されており、毎年約1,000人の患者が死亡している。しかし、ATL の詳しいガン化のメカニズムは未だ明確にされておらず、現在 ATL に対する有効な治療法も確立されていないため、新たな治療薬が切望られている。

<関連論文>
Muchima K., et al., Optical Fiber-Type Sugar Chip Using Localized Surface Plasmon Resonance.
J. Biochem. 2018, 163, 281–291.doi:10.1093/jb/mvy005

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