鹿児島大学大学院理工学研究科
工学専攻 化学生命工学プログラム

生命有機化学研究室 (若尾・新地研究室)

-Bioorganic Chemistry Laboratory-

研究内容

研究内容②:糖鎖修飾アジュバントを活用した感染症ワクチン・がん治療用ワクチンの開発

 近年、感染症に対するワクチンに加え、がんの予防・治療を可能とするワクチンの開発が進められています。このようなワクチン開発においては、従来型のワクチンに加え、mRNA ワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンなど、新たな技術を用いたワクチンの開発も進展しています。その中で私たちは、生産性と安全性に優れる「組換えタンパクワクチン」および「ペプチドワクチン」に着目した研究を行っています。
 組換えタンパクワクチンは、病原体の感染に関わるタンパク質を遺伝子組換え技術によって作製し、得られたタンパク質を抗原とするワクチンです。一方、ペプチドワクチンは、特定のタンパク質のうち抗原となる部分に相当する短いペプチド配列を化学合成し、抗原とするワクチンです。これらはいずれも生産性が高く、病原体そのものを含まないため、安全性が高いことが特徴です。一方で、抗原単独では十分な免疫を誘導しにくいことが、実用化に向けた課題となっています。そこで私たちは、「糖鎖修飾アジュバント」を活用することでこの課題を克服する次世代ワクチンの開発を進めています。

これまでの研究成果


糖鎖修飾アジュバントを用いたがん予防・治療用ワクチンの開発

がん予防・治療用ワクチンを目指したペプチド抗原・糖鎖ナノアジュバント一体化型ナノワクチンの開発

 ペプチドワクチンは、抗原特異的な免疫を誘導できる短いペプチド抗原を投与するワクチンです。がん細胞表面には、「ネオアンチゲン」と呼ばれるがん細胞特有の抗原 (目印) が発現しています。ネオアンチゲンは、腫瘍特異的な免疫応答を強力に誘導し得る有望な標的分子であることから、これを標的としたペプチドワクチンの開発が進められています。一方で、ペプチド抗原は、そのまま投与しても免疫誘導能が低いこと、細胞内移行性が低いこと、生体内で分解されやすいことなどにより、十分な免疫応答を得ることが難しいという課題があります。そのため、実用化に向けて、これらの課題を克服する革新的な技術が求められています。
 この課題に対して私たちは、免疫細胞送達性を有し、細胞性免疫応答を強力に誘導する「TLR7標的型糖鎖ナノアジュバント」を活用し、これをペプチド抗原と一体化したナノワクチンを開発しました。これにより、ペプチド抗原とアジュバント (免疫活性化分子) の免疫細胞への送達性が向上し、抗原特異的な免疫応答を増強できることを明らかにしました。さらに、このナノワクチンの接種によってがん細胞の定着を抑制できることに加え、がん細胞の定着後に接種した場合でも腫瘍の増殖を抑制できることを明らかにしました (東京科学大学・諸石研究室、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校・Carson研究室との共同研究) 。現在は、このナノワクチンのさらなる改良を進め、より強力ながん治療用ワクチンの確立を目指しています。

図. ペプチド・アジュバント一体型ナノワクチンにがん細胞に対する免疫応答の誘導

図. ペプチド・アジュバント一体型ナノワクチンによって誘導されるがん細胞に対する免疫応答

<関連論文>

  • Niimura M., et al., Harnessing an integrated glyco-nanovaccine technology for enhanced cancer immunotherapy. Commun. Med. 5, 378 (2025)
    doi.org/10.1038/s43856-025-01102-3
  • Harada N., et al., Peptide Modulation Overrides Glycan Synergy in Gold Nanoparticle-Based Vaccines for Cancer Immunotherapy. Cancer Med. 14(19), e71286 (2025)
    doi.org/10.1002/cam4.71286

糖鎖修飾アジュバントを用いた感染症ワクチンの開発

糖鎖修飾アジュバントを用いた経鼻投与型組換えタンパクワクチンの開発

 経鼻投与型ワクチンは、従来の注射型ワクチンと異なり、鼻腔内に投与することで免疫応答を誘導するワクチンです。鼻粘膜に免疫応答を誘導できるため、注射型ワクチンに比べて高い感染防御効果を示すことが期待されています。現在、インフルエンザに対する経鼻投与型ワクチンが臨床利用されていますが、弱毒化したウイルスを用いるため、安全性の観点から接種対象者に制限があります。この課題を克服するため、感染を引き起こす恐れのない遺伝子組換えタンパク質を抗原として用いる組換えタンパクワクチンが検討されています。しかし、組換えタンパクワクチンでは、タンパク質抗原単独では十分な免疫応答を誘導しにくいことが課題です。
 そこで私たちは、独自に開発した「糖鎖修飾アジュバント (TLR7リガンド-シクロデキストリン複合体)」が、経鼻投与型組換えタンパクワクチンの免疫誘導能を高める優れたアジュバントになることを明らかにしました。これにより、既存のインフルエンザワクチン (スプリットワクチン) と比較して、ウイルス感染を有意に抑制できることが示されました。現在、経鼻投与型ワクチンとしての実用化を目指して研究を進めています。

図. 糖鎖修飾ワクチンを活用した経鼻投与型組換えタンパクワクチン

図. 糖鎖修飾ワクチンを活用した経鼻投与型組換えタンパクワクチン

<関連論文>

  • Jufuku R., et al., TLR7 ligand-cyclodextrin conjugate is a promising adjuvant for intranasal influenza vaccine. Vaccine in press, (2025)
    doi.org/10.1038/s43856-025-01102-3

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